記 事 |
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目指すは世界の技術の集積地 技術継承の受け皿となる大洋手袋製造有限公司中国工場 長年培ってきた独白の製造技術やノウハウも受け継ぐ人がいなければ途絶えてしまう。 技術を伝承しようにも後継者がいないという間題は日本だけでなく、ファッション先進国に共通している。 大洋手袋製造有限公司の中国工場、大洋手袋製造廠有限公司に今、欧米から職人や機械が集まるという現象が起きている。 技術継承の受け皿となることで新しい技術の集積が進むだけでなく、大手素材企業とも提携を結ぶなど益々、メーカーとしての競争カ、存在感を高めている。 100%OEMで海外取引き45% 大洋手袋製造有限公司(本社:大阪・堺市、神谷勇社長)はレディス、メンズのバッグ・小物の企画・製造・卸。 自社ブランドは持たず、国内外のバッグメーカーや卸、百貨店や専門店、通販、アパレル関係などを相手に様々なOEMを請け負う。 その製造拠点は中国・深センにある白社工場、大洋手袋製造廠有限公司。 同社の設立は18年前。 日本企業との取引きから始まったが、90年代後半からは海外企業との取引が増え始めて現在、取引高べースでは全体の45%を占めている。 日本のバッグ製造・卸の中国進出は珍しくはないが、その大半は自社ブランドやライセンスブランドの生産が主流だろう。 それに対して同社の生産は100%OEM、しかも生産品目のレベルは中級以上から高級クラスに限定している。 この独自性こそ同社がグローバルな成長を遂げている主因である。 日本のバッグや靴など服飾雑貨の業界を見渡しても、同社と同じビジネスモデルで成長している企業は皆無だろう。 自社の技術ノウハウを移植 その同社でここ1-2年、継続的に”異変”が起きている。 それは海外、特に欧米企業との取引きをきっかけに次々と出てきている技術継承の動きだ。 日本の服飾雑貨メーカーに共通する悩みは職人の高齢化による生産能力の低下、後継者難による将来への不安。 こうした事情はファッション先進国でも全く同じである。 自社工場では品質・コスト・納期などが顧客の要求に応えられなくなって、いずれは経営が立ち行かなくなる。 その前に自社の技術やノウハウを他社へ移植しておきたい。 そんな境遇に置かれた欧米メーカーの受け皿となっているのである。 実際にどんな事例が現場で起きているのか、詳しく紹介しよう。 会社データ 大洋手袋製造廠有限公司 TAIYO HANDBAG MFY. CO., LTD. 総敷地面積 37000m2 工場床面積 8798m2 従業員数 550人 日本人スタッフ 6 人 生産能力 月産最大6万本 販売比率 日本 55% 海外 45% 海外メーカーと次々に技術提携、 イタリア大手生地メーカーとも専売契約 香港進出をきっかけに海外取引が加速 同社は89年の工場設立から10年間はほぼ100%が日本への輸出だった。 海外企業との取引きが増え始めたのは96年以降のアジアパシフィックレザーフェア(香港APLF)への継続出展と99年の香港ショールーム開設が契機となっている。 また04一年春に現在地に工場を移転・拡張して、技術を生かした品質本位のバッグを大量生産できる競争力と存在感が欧米企業の間で急速に広まったことが取引き先開拓に弾みをつけた。 「機械と職人を送り込む。 ラインごと移植したい」 04年のAPLF会場であるクライアントがメンズの革製ビジネス鞄を買い付けた。 クライアントはアメリカ・ニューヨークに本社を置くメンズ鞄の専門メーカー。 後日、このメーカーから「クオリティの高さに驚いている。 工場を見せて欲しい」と連絡があり、訪問を受け入れた。 その時に打ち明けられたのが「職人が高齢のため、これから10年後どうしたらいいのか悩んでいる。 チャイナに行くのは戸惑いもあったが、これだけのクオリティができるのであれば何の問題もない。 うちが決めたスペック通りのものを作って欲しい。 そのために必要な機械と職人を送り込む。 ラインごとこの工場に移植したい」という王旨だった。 このメーカーとの技術提携をきっかけにアメリカの爬虫類専門バッグメーカーも後に続いた。 ヨーロッパではドイツの革小物メーカー、フランスやイタリアの高級バッグメーカーとも同様の提携を結んでいる。 両者の関係は単にモノの取引きではなく、お互いに知恵と技術を持ち寄って良いモノを生み出そうとするコラボレーションのスタンスだ。 例えば提携するイタリアメーカーの場合、同社と契約しているデザインスタジオのチームと生産マネージャーが毎期2-3週間に亘って滞在し、一緒にサンプルを作って、協議を繰り返す。 これまでイタリアで行ってきた仕事の流れをそのまま中国に持ち込んでいる。 有能なクリエイターとの仕事で社胸に刺激 古今東西、様々な企業との提携は大洋手袋製造有限公司社にとって有形・無形の財産となって蓄積されていく。 フランスの取引先からはコバの磨き方を教わり、ミシンの糸や針はそれぞれアメリカとドイツの取引先の標準スペックに切り換えた。 こうした知識や知恵をきっちりと吸収できるのは大洋手袋製造有限公司社にとってメリットだ。 イタリア人デザイナーは絵を描くだけでなく、型紙が切れて、ミシンを操れて、CADも使える。 一人でサンプルを作り上げて具体的な指示を出す。 こうした有能なクリエイターたちと対等に仕事をすることが社内の刺激となり、スタッフのスキルアップにもつながっている。 大洋手袋製造有限公司社が中国に工場を設立して18年になる。 始めの5年間は日本の職人を雇い入れて生産技術の基礎を固めた。 そして8年を経過した頃から欧米顧客のスキルやノウハウが付加された。 彼らは一様に大洋手袋製造有限公司社の生産レベルと規模を驚異的に見ている。 中国の中でも日本人が経営する全く異質な会社と捉えて提携を申し入れてくるという。 さらにいえばオーナーやマネージャーの人柄、コミュニケーション能力、マネージメントスキルなどが総合的に評価された結果が現在の姿に反映されているのだろう。 DNA被との独占契約は好循環の仕組み こうした海外メーカーとの技術提携から波及して、大洋手袋製造有限公司社にとって追い風となる話題がある。 それはイタリアの大手生地メーカー、DNA社とアジア地域での独占輸入販売契約を結んだことだ。 日本では馴染みが無いかも知れないが、DNA社が創り出す高級生地は品質、デザイン性、完成度でヨーロッパでは屈指の存在。 表参道に旗艦店を構える数々の欧州ラグジユアリーブランドの企画開発を素材面から支えている。 DNA社の顧客は限られてくることから、これまでアジアでの販売は行ってこなかった。 ところが、同じイタリアの高級皮革タンナーから取引き実績の紹介と推薦があり、大洋手袋製造有限公司社の生産技術水準の高さが評価され、今回の契約に至った。 その時の決め手になったのが、技術継承の受け皿として機能している点だった。 DNA社白身もイタリアに伝わるものづくりの遺伝子、伝統を受け継ぐことを社名の由来としていることからも大いに共鳴したそうだ。 現在、DNA社の素材は大洋手袋製造有限公司社で生産するものだけに限定して使用している。 こうした素材を持つことは顧客への提案性アップや信頼獲得にもつながる。 つまりメーカーとして益々、もの、づくりを優位に進められる好循環の仕組みを加速させるものである。 アメリカ、イギリス、イタリアから新人を採用 昨年9月から大洋手袋製造有限公司社に男女3名の新人が入社した。 3名とも30歳前後の若手だ。 2人はバッグが好きで海外へ飛び出した若者でイタリアの工房に弟子入りした者と、英国セントマーチンカレッジで学んだデザイナーだ。 もう1人は米系IT企業の中国法人に勤務していたがバッグ業界は初めて。 営業兼MDの見習い中だ。 彼らに共通するのはそれぞれ欧米で生活経験があり語学が堪能なこと。 大洋手袋製造有限公司社のビジネスの中で欧米企業との関わりは年々拡大している。 こうした背景を踏まえて、今後の戦力として期待を担う人材である。 技術継承の受け皿としての意義は深い。 今後も新規採用を積極的に進め、こうした次世代に活躍できる人材を今から養成していく考えだ。 大洋手袋製造有限公司常務取締役神谷高締さん 「ラグジュアリーマーケツトでのポジショニングをより明確に。 さらに競争カ、存在感を高めていきたい。」 最近の工場での変化は? ハードが完成した2年前から今までの期間はソフトの充実に取り組んできました。 オーダーと共に技術を残したいという要望が次々と舞い込んできて、それらと同時に素材業者との提携もあり、内部充実が図れたと思います。 改めて御社の強味はどこにあると考えていますか? 一般的にバッグ製造は国際分業体制が基本です。 但しラグジュアリークラスのもの作りは作業が分断されては上手くいきません。 うちはヨーロッパのメゾンの作り方とマッチさせて、しかもスピードと量産にも対応できる。 ラグジュアリーマーケットで認められている唯一の日系工場と白負しています。 日本と世界をつなぐ新しいビジネスモデルを模索 最近の輸出・販売状況は? 欧米からの引き合いが本当に増えたと実感しています。 ロシアヘの輸出実績も出来てきて、取り引きがないのはアフリカ大陸だけ。 これからは取引先を選定して欧米の各マーケットでの拠点を整備しようと考えています。 今後の抱負、計画は? 今後は日本と世界をつなぐ新しいビジネスモデルを模索してみたい。 大阪本社内に工場を開き、海外で蓄積した伝統や技術をフィードバックしたい。 既に本社隣地150坪を購入し3階建ての建物も完成しています。 その他に欧米の顧客のバッグを日本市場に紹介、その逆に日本の伝統、技術、デザインを世界に紹介することも考えています。 弊社での単独事業にこだわらずコラボや提携を進め、個人レベルでも有能な職人やデザイナーへの出資、契約や採用も視野に入れ、グループとしての総合力でより明確に、競争力、存在感をさらに高めていきたい。 <フットウエアプレス 2007年 1月号> |