記 事 |
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国内バッグ製造・卸の中国進出は珍しくないが、その多くは自社ブランドやライセンスブランドの生産が主体であろう。 大洋手袋製造有限公司(本社:大阪・堺市、神谷勇社長)の中国工場はOEMが主体。 それも得意先は目本企業だけではない。 欧米をはじめ世界を相手に商売をしている。 同社は高級バッグエ場を中国でオペレーションする独自のビジネスモデルを確立し、グローバルな成長を遂げている。 89年進出から15年。 海外取引は40%に 大洋手袋製造有限公司はバッグの企画・製造・販売が主要業務。 国内バッグ製造・卸のほか百貨店、専門店、通販、アパレル、セレクトショツプなどで取り扱う多数のブランドをOEMで供給する。 その製造拠点は中国・深センにある自社工場。 大洋手袋製造有限公司インターの現地法人、大洋手袋製造有限公司である。 89年に韓国、香港の業者と3社合同で設立し、翌90年に単独100%出資に切り替えて工場の経営権を取得した。 企画販売会社として大洋手袋製造有限公司インターは93年に設立され、本格的に企画、製造、販売の体制を整えた。 工場はしばらく大洋手袋製造有限公司インターを通じての日本企業向けの販売が続いたが、90年代後半から、海外企業との取引が増え始め、現在では全体の40%を占めるまでに成長している。 中国進出から15年、製販の両面で進化を続け、業界を代表するグローバル企業となった大洋手袋製造有限公司インターの工場と戦略を紹介する。 管理能カを武器に 先進国の技術と感性を継承 新工場は12倍の敷地に 将来の備え<br> 工場は深セン空港から車で40分の工業区内にある。 この場所の前には近隣の3000m2の敷地で3棟の建物を使用していたが、数年来フル生産が続いていたため、次代の展開に備えて、02年末に用地を購入、1年半をかけて新工場を建設。 去年4月に新工場へ移転して生産ラインを稼動し始めた。 移転前と比べ、敷地は12倍の広さに。 東京ドームが3個半も入る広大なスペースだ。 ここに工場、従業員宿舎など延床面積約16000m2の施設が建ち並ぶ。 中国では電力需要に供給が追いつかず、停電が珍しくない状況だが、同工場には自家発電機のほかソーラーシステムや地下水利用システムなど最新のインフラ設備を整えている。 敷地内では今なお建築工事が行われていた。 2期工事として工場2棟と宿舎を新たに建てるという。 更なる生産規模の拡大と、同クラスのラグジュアリー製品メーカーを誘致して自前で工業区の運営を計画している。 事務所棟の最上階5階に500m2の広々としたショールームがある。 ここも誘致するメーカーとの共同利用を想定している。 バッグ、ジュエリー、アクセサリー、靴、ベルト、小物、皮革衣料などショツプ形式でトータル提案を行い、世界のバイヤーがワンストツプで、バイイング、商談が出来る機能を持たせたいという。 同社の社是の中には「世界の舞台で考え仕事すること」「世界でたったひとつの工場であり続けること」という言葉がある。 この工場を実際に訪れると、この社是が決して誇大表現ではないと感じる。 現地で寝食を共にする経営者 進出当時から「日本の二ーズに合った製品を生産し、日本人の価値観に対応できる品質を維持するには、日本人経営者が工場に常駐しなければうまくいかない」という考えから神谷勇杜長、大洋の神谷高締総経理ほか日本人 スタッフが家族と共に、現地で従業員と寝食を共にしている。 従業員もほとんどは敷地内の宿舎で生活を共にしている。 管理職や勤続杜員には別の宿舎を用意しているが、ここでは大半が家族を呼んで一緒に暮らしている。 仕事に打ち込める生活環境が整備されている。 また、敷地内にはバスケツトボールやバレーボールコート、バトミントン場やビリヤード場などレクリェーション施設が充実している。 周辺の同業と比較して給与は平均して2.5倍。 従業員の定着率は高く、現在、管理職を務める多くは91年~93年に入杜したベテランで固められている。 中国の大都市圏である深セン地区や上海地区では、今すでに人手不足の状況にある。 今後も安定的に人材を確保していくためには労働・生活環境整備への投資が欠かせないという。 生置効率が15%アツプ。 今年はさらに30%の増産計画 工場を自主運営に切り替えた当時の課題は生産技術の習得だった。 日本から職人を派遣して、技術指導を集中的に行った。 また取引先であったヨーロッパ企業から独自技術の指導を受けたことも大きく技術水準の引き上げにつながった。 90年代半ばには工場は革や布帛など多様な素材への対応はもちろん、ハンドバッグ類だけでなくキャリーバツグなどさまざまな形状、種類の生産をこなせるように成長した。 生産に当たっての基本姿勢は「不良品は一本も出さない」こと。 現場での班別ミス撲滅運動のほか、生産サンプルや補填資材の承認制度を設けている。 また、ライン毎のリードタイムコンテストや生産技術競技会などユニークな方法で品質管理に取り組んでいる。 この頃から工場管理のIT化にも力を入れ始める。 生産品目ごとの情報、在庫状況、ラインの進捗状況をリアルタイムにオンラインで共有する仕組みを作り上げた。 結果、ロスの削減とスピード化への対応につながった。 商品企画の専任は日本に2人、イタリアに1人と極めて少数。 自杜で一から企画するもの、相手先から持ち込まれたイメージを具体化するなど、パターンは様々だ。 素材は主にイタリアとフランス製が多く、日本を含むアジアでの開発、調達も行っている。 フランスの顧客が好意で地元の有力材料企業を紹介してくれたことも。 取引先から新しい取引先へとビジネスの輪が広がるのは信頼関係が出来ている証拠である。 工場スペースは以前と比べ2倍に拡張した。 ラインは多品種少量生産をこなすため裁断、縫製、組み立て、仕上げなど、全体を8チームに分けている。 通路幅を広げて台車での移動をしやすくするなど、全体にゆったりとした配置だ。 仕事の流れがスムーズとなり以前と比べ生産効率は15%アップしている。 今年5月には2期工事完了の見通しで、完成後には人員を増やし、生産量を30%引き上げる計画だ。 日本向け60%、海外向け40%の比率に 89年の工場設立から10年間はほぼ100%が日本への輸出だった。 海外市場開拓が勢いづいたのは96年以降のアジアパシフイックレザーフェア一香港一への継続出展と99年の香港ショールーム開設が契機となった。 2000年からはフランスの業者と取引きが始まり、欧州の展示会をきっかけに米国への出荷も開始、グローバル展開に弾みがついた年となった。 2003年より米国向けの販売では二ーマンマーカスなど百貨店のPB生産を開始。 ヨーロッパ向けではクリエーターブランドとの取り組みも増え、これらのブランドを日本のセレクトショツプが買い付け、日本の店頭に並ぶという逆輸入のようなケースも出てきた。 2004年の販売比率は日本向け60%、海外向け40%。 現在、受注が伸びているのはアジア諸国のラグジュアリー市場向けのプライベートブランドである。 欧州については一昨年、皮革製品に対する輸入関税撤廃があり、それを契機に欧州のバイヤーが中国に押し寄せていて、同社への新規引き合いも増えている。 現在ある大口の取引を進行しており、進捗次第ではミラノに拠点を構え、複数の顧客の取引を集約して自社で貿易物流も出来る仕組みづくりを考えているという。 ニューヨークでも同様の拠点整備で百貨店取引の深耕とデザイナーブランドの支援を計画している。 04年は20%の 増収増益見込み 中国工場のスタンスとは? ここ深センには15年くらい前から工場進出が目立ってきて、そのほとんどが豊富な労働力でこなれた価格のものづくりを指向していた。 価格競争力ではとても現地企業に太刀打ちできな いと感じましたので、日本企業としての管理能力を武器に先進国の技術力と感性を中国に継承しようと考え、工場を運営してきました。 工場のスケールと豪華さに驚きました。 ひとつは取引先が世界に広がり、多くのバイヤーと商談する機会が増えてきたため、その受け入れ施設として恥ずかしくないものをと。 もうひとつは従業員の労働、生活環境の水準も引き上げて、安定して高品質なものづくりを維持しようと考えた。 ファッション企業にふさわしい環境を整備して企業イメージを高め、5年後の人材確保を見据えています。 去年春の新工場稼動以降の受注や業績は? 03年から04年は20%前後の増収増益の見通し。 大幅増の要因は受注量と単価の両方がアップしているため。 固定費が変わらずに生産効率がアツプしたことも理由です。 今後はソフト売実を 目指し人材へ投資 中国内販の予定は? 今年の秋冬物からオリジナルとOEMの両立てで日系企業、現地企業へ本格的に販売を進めます。 去年11月にジャパンファツションフェア・イン上海に参加しました。 百貨店28件からアプローチがあり、OEM生産に関しては!8件から具体的な商品を要望されていて、既に4件から受注しました。 市場二ーズの手応えを感じました。 内販の具体的な狙いは? 当社が得意とするハイクラスなバッグ市場が育ってきているため参入時期と判断しました。 それと、今後、予測される人民元為替切り上げへのリスクヘツジの意味もあります。 内販によって売上げを人民元で回収して、給与など固定費の支払いに充当する。 このサイクルを作ろうと考えています。 御社のセールスポイントと今後の目標、計画は? 日本資本の高級バッグエ場を中国でオペレーションするというビジネスモデルでオンリーワンを確立しました。 取引きがグローバル化しているため、生産ピークを平準化でき、集積効果を発揮して、スケールメリツトの恩恵を顧客に活用頂けます。 素材調達力や品質・技術・納期等の管理能力を背景に顧客の競含優位性を創出するのが我々の務めです。 これからも、努力を怠らず、前進していきたいと思っています。 中国新工場が稼動し、今年は大阪本杜の隣地を購入して、現状の1.5倍に本部機能を拡充します。 ようやく弊杜の次代に備えたハード面の整備の目途がつきつつあります。 今後はソフト面の充実を目指し、人材へ集中投資を行うつもりです。 <FW フットウェアプレス・2005年1月号> |